もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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人間のきずな、夫婦のきずな

昔、受け持った患者さんの話です.
もともと慢性閉塞性肺疾患(COPD)による
呼吸不全で入院を繰り返していた方がおられました.
在宅酸素も行い、入院の度に
今度は、だめかも...と家族に説明していました.
体は小柄な人でしたが、いつもぎりぎりのところで
回復しては、また家に戻って行きました.
最期の入院は、最もひどく
気管拡張剤、ステロイド、抗生物質など
いろいろ手は尽くしましたが
次第に呼吸不全が悪化していきました.
奥さんに、ご主人の病状をよく説明し
これ以上の救命は困難であるとおつたえしたところ
挿管、人工呼吸などの延命処置は希望されませんでした.
「いままでやることはやって、手は尽くしたのだから
これも 主人の寿命だと思って諦めております」
といわれました.

普段気丈な奥さんでしたが、
ご主人の息が次第に不規則になり、あえぎ呼吸になるにし従って
奥さんも、いてもたってもいられないという風でした.
少しずつ、心電図が徐脈となり、補充収縮となり、
呼吸も微弱になっていきます.
最期には、幅広いQRSとなり、呼吸が停止し
心電図もフラットになってしまいました.
心電図をじっと凝視していた奥さんでしたが
心電図がゼロとなった途端
半狂乱の様相で
ご主人の耳元に口をつけ
「あんたー、まだ逝ったらいかんよ、戻ってこないかんよ」と
大声で叫んでいました.

人間のきずな、夫婦のきずな_a0055913_14334557.jpg


不思議なことに
その奥さんの一言でフラットだった心電図波形が
再び、動き出しました.呼吸もまた出てきました.
もちろん、その後数十分ほどして
今度は、完全に呼吸も心臓も停止したのですが.

2回目の心臓停止の時には
奥さんは、静かにご主人の手を握りしめて
黙って顔を見取っておられました.

改めて、夫婦のきずな、人間のきずなというものに
心打たれます.
まさしく、この時の奥さんの言葉が
一時的にせよ、ご主人を蘇生させたのです.
この時ばかりは、除細動でもなく、心臓マッサージでもなく
奥さんの心の底からの叫びが、ご主人の心臓を
再び動かしたのだと思います.

人間というのは、不思議で、
そして命はやっぱり尊いものです.
ここまで深い人と人との繋がりがあるということを
教えられた そんな経験でした.
by yangt3 | 2006-01-31 14:34 | 忘れ得ぬ患者さんたち