もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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日本人に多い冠攣縮型狭心症

冠動脈の動脈硬化による労作時の胸痛発作が
通常の狭心症です.
この労作時の狭心症においては、冠動脈の動脈硬化が進行すれば
不安定狭心症、心筋梗塞とより重症の症状を起こす可能性があり
できるだけ早い診断、精密検査と
カテーテル治療を含む専門的な治療が必要になります.

狭心症にはこうした通常の狭心症と異なり
冠動脈の一過性の過剰収縮(冠攣縮、スパズ厶とよびます)で
冠動脈の狭窄、閉塞が一過性に起こり
狭心症が発症するタイプがあります.

これが冠攣縮型狭心症です.
このタイプの狭心症は、欧米人に比較して
日本人に多いのが特徴です.
異型狭心症とも呼ばれます.

日本人に多い冠攣縮型狭心症_a0055913_062118.gif


ほとんどの場合、薬の治療で比較的良好な経過をたどりますが
まれに難治性の狭心症があり
内服の自己中止などによる突然死も報告されています.

私自身も、この冠攣縮型狭心症による
死亡例を1例、心肺停止を1例、心室細動を1例
経験しています.




最初の症例は、研修医時代のものでした.
早朝に心肺停止で運ばれた50代の男性の方でした.
懸命に心肺蘇生を行いましたが、結局亡くなられました.
その頃は、まだ経皮的人工心肺が簡単には使用できないころの話です.
近くの病院で、心臓カテーテル検査を行い
冠攣縮型狭心症と診断され内服を受けていたそうです.
仕事が忙しく、内服薬がなくなってしまい、大きな発作が生じ
心臓突然死となったものでした.
学生時代には、異型狭心症は、予後がよいと習っていたものですが
この時初めて、冠攣縮型狭心症でも死亡することがあるという
臨床の現実に直面しがく然としたのです.

その後、私自身も心臓カテーテル検査を行うようになり
予想していた以上に、この冠攣縮型狭心症が多いことに気がつきました.
不定愁訴や、不安発作として漫然と精神安定剤を投与していた方の中に
この冠攣縮型狭心症が隠れていて
心臓カテーテル検査できちんと診断し、必要な内服治療を行ったところ
すっかり元気になられた方もいらっしゃいました.

冠攣縮型狭心症の診断のためには、心臓カテーテル検査で
冠動脈に有意な狭窄のないことを確認し
薬剤負荷試験により冠動脈の攣縮を証明しなければなりません.
この薬剤負荷試験により人工的に冠動脈の攣縮を起こすことに
なります.通常は、薬剤を希釈して微量ずつ投与を行います.
時に薬剤の効果が思った以上に強くでて、
その後の冠動脈を拡張させるための
ニトロール冠動脈内注入でも、なかなか冠攣縮が改善せず
怖い思いをしたことは、沢山あります.
冠攣縮が強いと、冠動脈は、文字通り、完全に閉塞してしまいます.
すみやかに薬剤で冠攣縮を解除しないと、不整脈を起こし
手間取っていれば、徐脈、心室細動などを起こし危険なこともあります.

そんなわけで、冠攣縮型狭心症の心臓カテーテル検査による薬剤負荷試験は
通常のステント治療よりも、はるかに緊張します.

最近では、詳細な問診を行い、通常の冠動脈造影で冠動脈の動脈硬化が
なければ、経過より冠攣縮型狭心症と判断し、内服治療を開始しています.

少なくとも治療を行っていれば、冠攣縮型狭心症で
命を起こす事は、ほとんどないはずです.

数年前に、やはり早朝に60台の男性の方が心肺停止状態で病院に
救急搬送されました.心肺蘇生を行い、IABP挿入しながら
緊急心臓カテーテル検査を行いました.
救急室で心室細動となり、DCで正常心拍が再開.
カテ室搬入の時には、血圧も保たれていました.
心臓カテーテル検査では、左右冠動脈ともに有意狭窄を認めませんでした.
その後、特に合併症なく神経学的合併症も残さず軽快.
慢性期に改めて、心臓カテーテル検査にて、上記の
薬剤負荷試験を行ったところ、冠動脈の薬剤による冠攣縮が誘発されました.
この方も、冠攣縮型狭心症による心肺停止、心室細動だったわけです.
救命できて本当に幸いでした.

東可児病院に着任して、最近、この冠攣縮型狭心症による心室細動を
経験しました.同じく60台の男性で朝方に胸部不快を訴えて
当院受診.来院時には、著明なブロックを認め心拍数も30程度でした.
急いで治療を行っている間に、一過性に心室細動も生じました.
幸いに心室細動は自然軽快し、冠動脈拡張薬であるニトロールの投与により
心拍数も改善しました.
緊急で心臓カテーテル検査を行ったところ、やはりこの方も
左右冠動脈ともに有意狭窄は認めませんでした.
その後順調に症状改善しています.

日本人に多い冠攣縮型狭心症_a0055913_08106.gif


このように冠攣縮型狭心症は、思った以上に
多くの患者さんがおられるようです.
しっかりと診断され冠攣縮型狭心症と治療されている方は
ほとんど心配はありません.

今回紹介させて頂いた方は、いずれも男性で早朝に症状が生じています.
ただし、初発症状ではなく、詳細に話を伺うと
かなり以前から早朝に胸痛、胸部不快、動悸など狭心症を思わせる症状が
あったということです.
もし大きな発作を起こす前に、きちんと循環器科に受診していただき
治療を行っていれば、このような危険な事態は起こらなかったものと思います.

冠攣縮型狭心症の治療は、ほとんど内服治療で軽快します.
動脈硬化による狭心症と、この冠攣縮が合併することがあり
十分な内服治療によっても狭心症が続きステント治療を行った経験もあります.
これはあくまで特殊な例で、基本は、内服治療です.

われわれ医療スタッフにおいても、
冠攣縮型狭心症への認識が甘いように感じています.
今回の症例を契機として、あらためて
この冠攣縮型狭心症に対する認識を改めて、更なる治療に取り組むように
教育を行って行くつもりです.

患者さんの方々は、ともかく、少しでも変わった症状があれば
早めに病院に受診していただくことと
かかりつけの先生になんでも相談していただくこと、これに尽きます.
by yangt3 | 2006-06-12 00:08 | 一般