もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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業界用語の功罪

私が医学生の頃は、もうすでに医学用語は
英語主体の教育となっていました.
教科書も英語のものばかりで
医学用語も英語で覚えたものです.

例えば解剖学を例にとると
骨の名前ひとつとってみても
ラテン語、英語、ドイツ語、日本語などが
表記されていました.

だいたい医学用語に付いて言えば、
(あくまで私の個人的意見ですが)
特に解剖学や皮膚科などは
日本語表記のほうが難解でした.
むしろ英語を覚えたほうが簡単でした.

英語中心の医学教育を受けた私ですが
研修医になってみると、まだまだ現場では
ドイツ語を使われるドクターがおられて
そのドイツ語が、あまりわからなくて
ちょっと苦労したりしました.

業界用語の功罪_a0055913_023858.gif





ドイツ語も英語も医学部入学の最初の2年で
単位を取るわけですが
実際の医学の勉強では、あまりドイツ語に
ふれる機会はありませんでした.

ところが研修医になって現場に出てみると
まだまだドイツ語が現役で頑張っていました(笑)

ある外科医のカルテは、全てドイツ語で
記録されていて、その内容を理解するために
昔の学生時代のドイツ語辞書を
引っ張り出さねばならず
その前に、達筆で書かれた
ドイツ語らしき文字を判読するのも
また一苦労でした(笑)

そもそも大学病院には教授回診なるものがあり
教授の前で入院患者さんの病歴や治療経過などを
報告しなければなりません.
こんな時に、全て日本語で話すと
ちょっと不都合もあるわけです.

その点ドイツ語の医学用語を使う事で
なにやら医者同士の会話は
忍者の暗号めいた、分けのわからない会話になり
例えばガンの話や、治療の副作用など
ちょっと微妙な会話もできるというわけです.

英語よりは、ドイツ語のほうがなんだか
暗号みたいでしたね.(個人的感想ですが).

そんなわけで、私が研修医になった頃は、
まだ現場では、ドイツ語が
いわゆる業界用語として活躍していました.

ある日看護婦さんが デュリュック、デュリュックと
繰り返し叫んでいるので
なんか、カエルの鳴き声みたいと思ったものですが
ドイツ語で血圧の事をいっていたわけで
ちょっとあとで恥ずかしかったのでした(笑)

あとよく使われたのは
「先生、一緒にエッセン行きましょう」
エッセンていう喫茶店なのかと思いきや
これは食事に行きましょうという意味でした.

医局では、オーベンだのネーベンだの
ジッツだのティーテルアルバイトだの
やはり暗号のようなドイツ語が飛び交っていました.

私は、北杜夫の どくとるマンボウシリーズを
読破していたため
ビーコン(追試)、トリコン(再々試)などの
ドイツ語は知っていましたが
あとはよくわからず苦労しました(笑)

研修医として、しばらく仕事を続けていると
こうしたドイツ語も、結局のところ
業界用語ということで
私も知ったかぶりしてエッセンだのオーベンだの
言葉を使ったりしていました.

私の回りで、ドイツ語を使っていた看護士さんも
医師も、いわばベテランの人たちばかりで
人間的には、素晴らしい人ばかりでした.
ただいつの間にか、ドイツ語を使う人たちは
ほとんどいなくなりました.

医学部を卒業して知識も技術も
まだまだ未熟な駆け出しの研修医にとっては
とりあえず、現場の業界用語を
一生懸命覚えて、それをすらっと
口に出せるようにすることで
なんとなく一人前になった気がしていました.

業界用語の功罪_a0055913_03691.gif


業界用語というのは不思議なもので
使い方をあやまると
業界用語を知らない人を阻害するような
感じになってしまいます.

例えば「急性虫垂炎」という病気があります.
私の研修医の時の外科の先生は
アッペ、アッペと読んでいました.
今の職場では、なぜかアッペンと呼ばれています.
正確には、Appendicitisなわけです.
アッペとアッペンの違いなんて
わずか「ン」だけなんですが
アッペンを使う地域においてアッペと口に出すと
なんとなく白い目でみられるような感じもあります.

業界用語と違うのは、学会や教科書できちんと
決められた分類などです.
例えば、左冠動脈の左前下行枝の起始部に90%の
狭窄があるというのを
LAD #6 jpに90%狭窄がある、というほうが
専門家同士では、話が正確に伝わります.

私が考える業界用語というのは、
まいうー と同じようなもので、
出身大学、勤務する病院などで微妙にことなる
非学問的言語のことです.

少々の業界用語であれば、場を潤すと思いますが
度をこすと、かえって良くないんじゃないかと
思っています.

そういえば、今の職場では、変な業界用語は
あまり使われないですね.
新人さんや途中入職の人もいるので
きちんとした用語を使わないと
業務が滞るからかもしれません.

食事にいくのも
普通に食事に行きましょうという感じですし.
医療スタッフといっても
そんな普通の会話のほうがいいかなと思っています.

東可児病院では、最近循環器科を
立ち上げたという事情もあり
私もできるだけ、業界用語、略語はさけて
きちんと新人スタッフでも理解できるように
カルテを書くようにしています.
やむを得ず英語の用語を使う時も
必ず日本語を併記しています.
そんな私の隠れた努力を
新人ナース達がうまく吸収してくれるといいのですが.

業界用語をあまり使い過ぎると
なんとなく普通の常識的な感覚が
無くなってしまうように思います.
そうすると、患者さんへの説明の時にも
平気でわけのわからない業界用語、略語を使って
患者さんが理解できず、説明に失敗する
などということも起きてしまいます.

そんなわけで、しばらくは
業界用語や略語はできるだけ使わないようにしようと
そんなふうに思っています.
新人さんたちが、臆する事なく
医師とのコミニケーションがとれるように.

余談ですが、最初に紹介したデュリュックの看護士さんは
かなりの年月を独身で過ごして仕事に
身を捧げていましたが、私が研修を終わる頃に
無事に寿退職されました.
いまどうしておられるか、ちょっと懐かしい感じです.

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by yangt3 | 2006-09-21 00:03 | コーヒーブレイク(雑談)