もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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臨床疫学する心

臨床疫学という学問があります.
疫学というのは、Wikipediaの定義によれば
「疫学とは生物集団における病気の流行状態を研究する学問」
ということになります.

簡単にいえば、人間社会におこる様々な病気の発生を扱う
医学であります.

ある病気が流行した場合、その流行の原因を調べ、
その原因を除去することにより病気の流行そのものを
制御(終焉、予防)するための学問です.

最近、医学の分野で強調されているエビデンスやEBMというのも
こうした疫学研究による学問的成果であるといえます.

21世紀は予防医学の時代といわれています.
予防医学の中心となるのがこの臨床疫学です.

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たとえば最近、このような記事がでました.

-------------------asahi.com 2006.09.26
糖尿病にかかるとがんリスク3割増 厚労省研究班調査
http://www.asahi.com/health/news/TKY200609250440.html

 糖尿病にかかっていると、がんを発症する危険が
 2〜3割高まるとする結果を、厚生労働省の研究班
 主任研究者=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長
 が約10万人を対象に調べた研究からまとめた。
 米国の内科学専門誌で26日に発表する。

 90年から94年にかけて、
 40〜69歳の男性約4万7000人、
 女性約5万1000人にアンケートし、
 糖尿病の有無や生活習慣などを聞いた。
 その後の経過を03年まで追跡すると、
 男性で3907人、女性2555人が
 何らかのがんにかかっていた。

 糖尿病になっていた人ががんを発症するリスクを
 糖尿病でない人と比べると、
 がん全体では男性で27%、女性でも21%上回っていた。
 男性では、糖尿病の人はそうでない人と比べて
 肝臓がんで2.24倍、腎臓がんで1.92倍、
 膵臓(すいぞう)がんで1.85倍とリスクが高まっていた。
 女性では肝臓がんで1.94倍、胃がんで1.61倍だった。

 一般的な糖尿病では、病気が進む過程でインスリンが
 過剰分泌状態になる。この状態だと、細胞の増殖が刺激され、
 がんにつながりやすいことが実験で知られている。
 ただ、肝臓がんを招く慢性肝炎などを抱えていることが、
 逆に、糖尿病の危険を高めている可能性も考えられるという。

 津金さんは「糖尿病につながる肥満や運動不足、
 喫煙といった生活習慣を改めることが、がんの予防にも役立つ」
 と話している。
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糖尿病については、いろいろな臨床的事実が知られています.
糖尿病を合併するとさまざまな動脈硬化に関連した
疾患が増加します.

具体的には、グリコヘモグロビン(HbA1c) が8.0を越えると
癌の発生が高くなるという事は
以前より知られていました.

今回実に10万人を対象にして、明らかな事実として
確認されたことになります.
これがエビデンスであり、臨床疫学です.

現在、疫学という学問は
病因疫学、分子疫学、遺伝子疫学などさまざまに細分化され
研究が進められています.

臨床疫学という学問は、
生活習慣病のリスクの解明から疫学の実践まで,
つまりは予防医学の中枢を担う学問となっています.

私が教えを乞うている先輩医師は、
この臨床疫学の達人であります.
週に一度は、その先生の話を聞かせてもらい
勉強を続けています.

毎日、毎日、目の前の患者さんの治療を一生懸命に行うこと.
狭心症の患者さんに、一生懸命カテーテル治療を行うこと.
そうして、日本全国で沢山の
医療スタッフが日夜を問わず、臨床現場で
仕事を続けています.

臨床疫学やエビデンスがこれだけ確立した現在
自分たちの治療がどのような疫学的事実にのっとって
行っているのかを常に頭に置きながら
仕事をしなければならないと思っています.

自分たちの一つ一つの仕事が
マクロとして、全体として、日本全国で、世界中で
どのような効果を及ぼして行くのか.

今日、先輩医師との話題は、コレステロールの話でした.
循環器の分野では、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化の進行を
ふせぐために積極的に薬剤(スタチン)を使用して
コレステロールを下げる事が進められています.

あまり知られていない研究ですが
薬剤により過度のコレステロールを低下させると
(総コレステロールが180以下)
癌の発生が高まるというデータがあります.

こうしたふたつの相反する臨床疫学的事実を前にして
現場の人間はどうしたらよいのでしょうか.

まだまだはっきりと答えのでないこともあります.
たったい一人で、何事も
独り相撲(一人相撲)で仕事を続けても、必ず負けてしまいます.

これまでに集積された、さまざまな臨床疫学的事実や
エビデンスを統合し
臨床疫学に基づいたオーダメイド医療を
進めて行くというのがこれからの目標だと思います.

新しい心肺蘇生ガイドラインにも
こうした臨床疫学の最新の成果が盛り込まれています.

私たち現場の人間としては、こうしたガイドラインや
エビデンスを、頭から丸暗記するということではなく
どのような形で今回の改訂になったのか
ガイドラインの背景や過程を十分に理解し
十分に吟味して運用しなければと思います.

ガイドラインをマニュアルとして使わず
科学的に吟味、理解するということでもあります.

日々の循環器の診療に追われながら
今、私は、先輩医師に教わった
臨床疫学する心を持ちたいと密に考えています.

日本疫学会のホームページはこちらです.
 日本疫学会
 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jea/

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by yangt3 | 2006-10-06 00:07 | 一般