もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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薬剤溶出ステントをめぐる諸問題

狭心症の治療にはステントと呼ばれる治療器具が
用いられています.
心臓の血管(冠動脈)の狭窄したり、閉塞した病変に
このステントト呼ばれる人工血管のような
金属メッシュを植え込んで治療を行います.

現在では、90%以上の治療において
薬剤溶出ステントと呼ばれるステントを使用しています.

薬剤溶出ステントは、ステントに再狭窄を予防する
薬剤がコーティングしてあり
冠動脈に植え込まれた後に、徐々に
冠動脈内で、薬剤を溶出することにより
冠動脈治療後の再狭窄、再発を防止しています.

いいことばかりのステントですが
最近、慢性期の問題について議論がされています.

薬剤溶出ステントをめぐる諸問題_a0055913_8551451.gif





当院での経験でもこの薬剤溶出ステントを用いて
治療を行った患者さんでは、再発、再狭窄は
ほとんど認めていません.

従来から循環器科医師を悩ませていた
カテーテル治療後の再狭窄を
この薬剤溶出ステントが解決してくれたのです.

薬剤溶出ステントを使用して治療した冠動脈病変は
ほとんど症状の再発は起こらず、
きれいな冠動脈のままです.

もし薬剤溶出ステント後に症状が再発することがあれば
また別の新しい部位の病変といいきることが
できるほどです.

薬剤溶出ステントは、狭心症だけでなく
急性心筋梗塞の治療にも用いられています.
心配されていた治療後の血栓も
バイアスピリン、パナルジンの内服をきちんと
行えば問題ないとされています.

ステント治療後、担当医の指示に従って
バイアスピリン、パナルジンの内服を継続すれば
まず問題になることはありません.

最近、薬剤溶出ステントの血栓の問題について
議論がされるようになってきています.

ステント治療後に1年以上たっても
バイアスピリン、パナルジンなどの坑血小板薬を
急に中止すると、血栓が発症し
狭心症や急性心筋梗塞を発症することがあるということが
わかってきました.

関連する記事です.

--------------------NIKKEI NET 2006.12.14
薬剤溶出ステント、FDAは継続の姿勢
http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20061215hj000hj

薬剤溶出ステントをめぐる諸問題_a0055913_8555725.gif


-------------------YOMIURI ONLINE 2006.12.22
血管拡張「薬剤溶出ステント

これらの記事は、薬剤溶出ステント治療後
1年以上たってから、ステント植え込み部に血栓ができる
危険性について紹介されています.

薬剤溶出ステント治療後に内服する
パナルジンの副作用については、以前からかなり
厳重な注意がなされており
現実問題としては、大きな問題とはなっていません.

ただ最近の見解としては
薬剤溶出ステントで治療を受けられた患者さんには
できるだけ長期の内服継続が進められています.
残念ながら日本では、欧米で一般的に使用されている
クロビドグレル(プラビックス)が
循環器領域で使用できないため
(日本での適応症は脳梗塞のみ)
現実的には、パナルジン、バイアスピリンを
長期継続していただくことになります.
最低でもバイアスピリンだけは、継続することが
非常に重要です.

これまでは、薬剤溶出ステントを植え込んだあと
一ヶ月以内に起こる急性期、 亜急性期の
血栓症が心配されましたが
治療前からパナルジン、バイアスピリンの投与を
続けていれば、その頻度は通常の非薬剤溶出型の
ステントとかわりがありません.

今回問題になったのは、薬剤溶出ステントの治療から
1年以上たっても、手術やなんらかの理由によって
急に坑血小板薬(特にバイアスピリン)を中止すると
治療したステントに血栓症を起こす可能性があると
いうことです.
バイアスピリンを通常通り継続していれば
まず問題になることはありません.

最近の学会では、こうした薬剤溶出ステントの
慢性期の血栓症の問題が真剣に議論されています.

薬剤溶出ステントの使用によって劇的な
再狭窄率の低下、再発率の低下を求めるか
長期的な坑血小板薬、抗血栓予防薬の長期使用の
問題点を重視するか、担当医、施設によって
考え方、対応が徐々に変わってきています.

これまでは、すべての狭心症、冠動脈の治療に
薬剤溶出ステントを使用しようという機運でしたが
こうした問題点を反映して
通常の薬剤溶出でないステントを多く使う施設も
増えています.

長期の坑血小板薬、抗血栓薬の継続投与についていえば
弁膜症で弁置換術の手術を受けられた人は
機械弁を使用した場合には、一生ワーファリンという
抗血栓薬を内服しなければなりません.
さらには、心房細動の患者さんにおいても
このワーファリンの投与が行われており
抗血栓薬の長期投与は
循環器領域の治療では、一般的に行われていることです.

狭心症、急性心筋梗塞の場合、不十分な治療であれば、
最悪の結果をたどることを考えれば
薬剤溶出ステントの治療によってバイパス手術を
うけることなく、少ない再発率で
病気を克服できるのですから
坑血小板薬の長期投与はいたしかたないと
思うべきかもしれません.

私自身は、薬剤を使用しない通常のステントを用いて
長らく冠動脈の治療を行ってきました.
薬剤を使用しないステントの治療の場合
再狭窄、症状の再発は湯治20〜30%といわれていました.

運の悪い方は、ステント治療を行っても
何度も再狭窄により再発し
そのあと数回のカテーテル治療を行ったものの
最終的にはバイパス手術を受けられることに
なった方も沢山おられました.

高い再狭窄のおそれから、びまん性の長い病変の治療
左主幹部など血管の根元の治療
3枝病変の治療などは、バイパス手術におくる例が
少なくありませんでした.

通常のステントで否応なくおこる
狭心症の再発、再狭窄をいかに少しでもよくするか
そこが担当医師の腕のみせどころでもありました.
日本の循環器科医師は、血管内超音波( IVUS )を
用いて治療することを得意としており
こうした機器を持ちいて散ろうを行えば
再狭窄率をさらに低くすることが期待されてました.

現にその当時、最先端の医療機関では
通常のステントで再狭窄率を10%を切る程度までの
成績を出していました.

私も通常ステントによる狭心症の治療を行っていた時代
この血管内超音波を併用しており
再狭窄率は5〜8%程度のかなり低い数字で
治療を行っていました.
それでも完全には再狭窄を防ぐことが出来ないのが
問題でした.

それほど通常ステントの再狭窄の問題は
大変なことでしたが
薬剤溶出ステントは、一気にこれらの問題を
解決したのです.
薬剤溶出ステントで治療を行えば
再狭窄のおそれがほぼなくなるばかりか
これまでの通常ステントでは、治療を見送っていた
びまん性病変、左主幹部病変などの複雑で困難な
病変もカテーテルで治療をすることが可能に
なったのです.

これまでバイパス手術に送っていた
重症の狭心症をかなりの部分で循環器科医師が
カテーテルで治療をできるようになったのです.

このような事情からいまさら
薬剤溶出ステントを使用しない狭心症の治療というものは
想像ができにくいことです.

薬剤溶出ステントをめぐる諸問題_a0055913_856377.gif


最近の報告によると
薬剤溶出ステントの慢性期の血栓症を起こす因子として
・分岐部の複雑なステント植えこみ
・透析患者
などが議論されています.

こうした議論を受けて
先の第13回鎌倉ライブにおける斉藤 滋先生の
治療ライブにおいても
左主幹部の治療においては
左主幹部に薬剤溶出ステント、分岐部への付け足しの
T- ステントは、通常のステントを用いるという
手技が行われていました.

慢性期に血栓症を起こせば致死的になる左主幹部での
安全なステント植え込みの手技については
まだまだ統一した見解がありませんが
以前のような複雑なステント植え込み手技は
避けられるようになってきているのが現状です.

同じく先日参加した第12回 i-IVUS研究会において
東海大循環器科の森野先生が発表されていた内容で
興味深いものがありました.
OCT を使って薬剤溶出ステント植え込み後の
内皮形成について検討したものでした.
それによれば薬剤溶出ステントのストラットが
血管壁にのめり込む様に、強く密着している症例においては
そうでないケースよりに比べると
血管内皮の形成が少ないけれども見られるということでした.

通常のステントでは、1ヶ月を超えると血管内皮が
植え込んだステントをカバーして
ステントはいわば血管の壁の中に埋め込まれた状態になります.
このステントを覆う血管内皮が慢性期の
血栓症を予防することにもなり、内皮形成が過剰であれば
再狭窄につながります.
したがって通常のステントで数ヶ月を経過してものであれば
再狭窄さえなければ、坑血小板薬を中止したとしても
慢性期の血栓症のリスクは限りなく少なくなります.

同様の理屈で、薬剤溶出ステントの場合は、
ステントから溶出される薬剤のために
ステントを覆う内皮形成は抑制され制限されます.
(内皮化の抑制といいますが)
これが再狭窄の予防につながるわけですが
ステント植え込み後1年以上たってもステントに
内皮がはらず、場所によってはステントがむき出しのまま
となり、この部分が慢性期の血栓症につながります.

つまり慢性期の血栓症の予防には、植え込んだステントに
適切な内皮形成が伴うことが必要不可欠です.
先の森野先生の講演内容から考えると
薬剤溶出ステントでも、通常よりは内皮形成が抑制されると
しても、かなり強く血管壁にステントを密着させることにより
慢性期の血栓症を予防出来る程度の
内皮形成は望めるのではないかということを
想像しました.

透析患者の冠動脈は強い石灰化のために
植え込んだ薬剤溶出ステントの拡張がどうしても不十分となります.
石灰化の強い部分では、ステントがうまく血管壁に密着しない部分も
あるかもしれません.これが慢性期の血栓症の
原因になるかもしれません.

また左主幹部などの分岐部のステント治療においては
やはり複雑な分岐部分での、特に起始部でのステントの
血管壁への密着が不十分に成りやすいと考えられます.
これが慢性期血栓症の原因になるかもしれません.

薬剤溶出ステントが世にでた時には、
その高い再狭窄の予防効果、低い再発率から
ステントが血管に密着していれば
通常ステントの時のようにより大きく広げる必要はないと
いわれてきました.

これまでの通常ステントであれば、ステントの後にされに
別のバルーンを使用してできるだけ大きくステントを
広げていたものです.

私が現在考えているのは、やはり
薬剤溶出ステントにおいても通常ステントと同じように
できるだけ大きく広げたほうが
慢性期血栓の予防も含めて成績がよいのではないかと
いうことです.

最近は、薬剤ステントの植え込みにおいて
前拡張や坑拡張などのバルーン拡張を省略して
いきなり薬剤溶出ステントを植え込むことが
行われてきています.
( Direct Stentingと呼びます)

将来の内皮化の問題を考えれば
やはり薬剤溶出ステントにおいても
十分にバルーンを用いた後拡張を丹念に行って
ステントをできるだけ大きく血管壁に食い込むように
広げることで、将来の内皮化が促進され
ひいては慢性期の血栓症の予防につながるのではないかと
そう考えています.

当院では、血管内超音波を前例に用いて、ステントを
丹念に検査し、植え込んだ薬剤溶出ステントを
できるだけ広げるように治療手技を工夫し
努力して行っています.

これから薬剤溶出ステントの慢性期の血栓症の問題を
含めた聴器の成績の大規模調査の結果が
発表されてくると思います.

少なくとも現在入手できるデータを網羅して
少しでも安全性を高め、少ない再狭窄率、少ない再発を
めざして治療努力を続けていかなければならないと
考えています.

先日は、上記の血栓症の関連で
バイアスピリンに対してアレルギーがあり
長期投与が困難な患者さんにおいて
薬剤溶出ステントではなく
通常のステントを用いた治療を行いました.

いずれにせよこうした最近のデータや成績をふまえて
治療を受けられる患者さんの皆さんに
十分に説明を行って
少しでもよりよい治療、安全な治療を心がけていきたいと
そう思っています.

薬剤溶出ステントですでに治療をされて
バイアスピリン、パナルジンを継続して内服されている
方々においては、もし疑問の点、不安の点がありましたら
遠慮なくお尋ねください.
by yangt3 | 2006-12-25 08:57 | ニュース