もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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レット・ミー・ディサイド

渡辺 淳一氏の初期短編集である
「白き手の報復」のなかに
「少女の死」という作品が収められています.
高校の頃に読んで、強く印象に残っています.

残念ながら手元にその本がなく
うろ覚えの記憶です.

心臓病を患った少女が夜間に突然に
心肺停止となってしまいます.
2人の当直医が心肺蘇生を始めます.
胸を切開し開胸心マッサージが行われます.

1時間あまり2人の当直医が蘇生を行ったにも
かかわらず、少女の心臓の心拍は回復することは
ありませんでした.....

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この小説は、きりぎりす という題で
テレビドラマにもなり、舞台劇として
劇団てんびん座によって公演もされています.





「一体、この子は生きるんですか、
    死ぬんですか」
「死んでるよ」
「死んでる?」
「俺達が今手を離せば、その時死んだ時だよ」
「・・・ ・・・ ・・・」
「俺達がやめた時が、この子の死亡時刻さ」

1時間あまり心肺蘇生が続けられます.そして

「死亡時刻は十一時四十四分だ」
「先輩はその時間をどうしてきめたんですか」
「俺の手が心臓から離れた時だ」
「じゃあ何故その時話したんです」

先輩の当直医が心臓マッサージの手を停めたのは
少女の飼っていたキリギリスが鳴いた時でした.

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まだ医学部に入る前に、この短編を読んで
かなりの衝撃を受けたことを覚えています.
医学牛術や蘇生技術が進歩したとしても
生と死には、まだ越えられない壁があるということを
強く印象づけられました.

現役の医師となって、この短編のように
日々様々な臨床に立ち会っても
この短編を始めた読んだ時の自分の思いを
まだ変えることができないでいます.

このように医学には、まだ不確かな、不確実な部分が
残っているということです.

レット・ミー・ディサイドという言葉をご存知でしょうか.
末期状態になった患者が自分の治療方法について
事前に希望することを文書にして残していくことです.

--------------------高知新聞 2007.02.23
末期医療患者が事前指定 幡多23病院一斉に
http://www.kochinews.co.jp/0702/070223headline09.htm

 病気や事故などで重篤な状態に陥った場合を想定し、
 事前に治療方法を文書で指定しておく
 「レット・ミー・ディサイド」を4月から、幡多地域の
 23の医療機関がスタートさせる。組織的な取り組みは
 高知県内初で、呼び掛けた幡多医師会の大井田二郎会長は
 「本人が望む医療を受けることで、少しでも納得のいく
 死を迎えることにつながるのではないか」としている。

 「レット—」は、カナダのウィリアム・モーロイ医師が
 提唱した。意識がなくなるなどコミュニケーションが
 取れなくなった時のために、希望する治療方法を
 「事前指定書」に記しておく。

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 指定書は「命にかかわる病気」「心停止」「栄養補給」の
 3項目について、回復可能、回復不可能それぞれの場合の
 治療法を選択する。

 例えば命にかかわる病気になった時、
 痛みを取り除く「緩和ケア」
 ▽有効な薬を試しても構わないが、手術はしない「限定ケア」
 ▽手術をしてもいいが集中治療室へ入ることは望まず、
  術中、術後以外は人工呼吸器を使用しない「外科的治療」
 ▽手術や生命維持装置の使用、臓器移植などあらゆる努力をして
  生命を維持する「集中治療」
 —の4項目から選ぶ。

 個人的要望の欄も設けており、自分にとってどんな場合が
 回復可能、不可能な状態であるかなどを記すことができる。

 かかりつけ医や家族らと十分相談して指定書を作成。
 本人、医師、代理人(家族ら2人)の署名が必要で、
 年に一度または健康状態が変わった際などに見直せる。
 また、意識がしっかりしていて自分で判断することが
 できる場合は、指定書は効力を発揮しない。

 4月から高知県の四万十市、宿毛市、土佐清水市、
 幡多郡黒潮町の23の民間病院でスタートさせる。
 主な対象は75歳以上。事前指定書の用紙代は
 一部200円で、医師が相談に応じる。大井田会長は
 「家族らと死について話すことで、自分の受けたい医療を
 身近に考えてもらえたら。取り組みが普及すれば、現在、
 延命治療などで多額になっている医療費の抑制効果も
 期待できるのではないか」としている。
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ご存知のように日本の緩和ケア、終末期、末期ケアについては
まだ問題が山積しています.
欧米に比べてホスピスも限られており
日本では、緩和ケアの対象疾患も癌やAIDSなどに限られています.

EOL(the End of Life);終末期という言葉があります.
通常の病気や健康な時には、QOL(Quality of Life)といわれ
その生活の向上が問題にされていますが
QEOL(Quality of end of life);終末期の生活や緩和などについては
まだまだ全然足らないと思います.

最近の一連の人工呼吸器外しの報道によって
救急医学会がガイドラインの制定作業に入っているとしても
一般臨床医には
心臓が動き続けている限り
人工呼吸器を外すことは罪悪である.
最悪の場合、刑事罰になる可能性があるという
恐怖感がすりこまれてしまいました.

筋弛緩剤をめぐる事件もまだまだ記憶に
新しいところです.
まだこの国では、癌性疼痛に対してのモルヒネなどの
麻薬による積極的な鎮静、鎮痛も
人工呼吸器外しの問題と同様に
モルヒネの使用により癌の痛みを和らげても
その結果死期が早まった場合に
刑事事件として責任をとわれるかもしれないという
いらぬ恐怖や心配をぬぐうことができないのです.

この国では、患者だけでなく、医師にも医療スタッフにも
末期医療については、多分のストレスがあり
特に最近の風潮である警察の刑事事件としての起訴の増加から
緩和ケア、末期ケアについても
積極的な治療に二の足を踏んでしまいがちです.
これは本当に不幸な現実です.

今回のレット・ミー・ディサイドの開始は
こうした現状への突破口となるかもしれません.

十分な治療を行ったとしても
避けられない死があるという現実を
素直に受け入れて、家族と医療スタッフが共通の
問題点として具体的に話し合い
こうした文章にのこすということはとても大切なことです.

マスコミの偏った加熱報道により
人工呼吸器だけが末期医療の全てであるような
印象が世論にすりこまれてしまいました.

それ以外に、疼痛の緩和、病気から引き起こされる
様々な苦痛や症状を和らげるケアについて
もっと議論を深めていきたいと思います.

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by yangt3 | 2007-02-26 00:08 | ニュース