もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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心不全による肺水腫の非侵襲的呼吸管理

狭心症、心筋梗塞、その他の種々の原因で
心不全が発症し、最悪の場合には
心不全から肺水腫を来たし
呼吸困難、喘鳴などを起こしてきます.

通常、こうした場合には
気管挿管を行い、人工呼吸管理となります.
心不全の成因によってはカテーテル治療や
バイパス手術の適応を考え
心臓補助のために
IABP(バルーンポンプ)
PCPS(経皮的人工心肺)などを
用いることもあります.

肺水腫改善のために血液浄化療法を用いて
ECUM、CHDF なども行われます.

高齢者の心不全の場合には
気管挿管や人工呼吸器の使用を
本人や家族が望まれないことも多く
それでも心不全の増悪から起こる
呼吸困難、喘鳴をなんとかしてあげられないかと
頭を悩ませます.




心機能が保たれているような心不全であれば
肺うっ血、肺水腫となっても
適切な利尿剤やハンプなどの投与により
尿量増加とともに、症状の改善が見られます.

心収縮力も低下し、血圧も下がっているような
ケースの場合には、さらに対応が困難になります.
昇圧剤(カテコラミン)を投与しながら
最悪の場合は、気管挿管、人工呼吸管理が必要に
なります.

高齢者、超高齢者で心不全が増悪した場合にあっては
フルコースの治療に躊躇するのも事実です.
できればできるだけ身体に負担のかからない方法で
つまり非侵襲的な方法でなんとか急場を
乗り切れないかといつも考えています.

先日も高齢者の方が心不全で入院されました.
心エコー検査では、左室機能、駆出率が
著明に低下し、心房細動を合併.
血圧も80〜90代で
胸部レントゲンで著明な肺水腫と心拡大を
認めました.

家族、本人ともに気管挿管による人工呼吸は
希望されませんでした.
利尿剤やカテコラミンなどの薬剤による治療を
続行していましたが症状は一進一退でした.

ある晩のこと、急に喘鳴と呼吸困難が悪化.
胸部レントゲンで確認すると
著明な肺うっ血と心拡大の増強を認めました.

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利尿剤をさらに追加投与し、ハンプも加えて
治療を続けましたが
喘鳴と呼吸困難は強まるばかりでした.

本人も、苦しい、苦しい、
何とかしてくれーと、傍から見るのも
本当に苦しい状態です.

そこで私が選択したは、
非侵襲的呼吸療法です.

新病棟の集中治療室には
VELAと呼ばれる呼吸器が3台つねに
スタンバイしています.

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この呼吸器は、扱いが簡単でセッティングも迅速であり
非侵襲的呼吸法に対応していることが利点です.
さっそく専用のマスクを
患者さんに装着し、BiPAPモードと呼ばれる
呼吸モードでの治療を開始しました.

気管挿管を行わずに、顔面にぴっちりと密着させた
マスクを用いて、陽圧で患者さんの呼吸を補助するという
呼吸モードです.

装着してものの数分すると
すぐに患者さんの喘鳴は改善し、あれほど七転八倒して
苦しんでいたのに、だんだん穏やかな呼吸に変わってきました.
マスクを装着する前には1分間の呼吸回数が
40回以上の頻呼吸であったのが
マスクを装着すると17〜18回まで改善したのです.

その後、夜間は比較的穏やかに経過し、
明け方には、利尿剤やハンプによって尿量も増加.
状態はすっかり落ち着きました.

翌日の胸部レントゲンでも
著明に肺うっ血が改善していました.

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翌日には、通常の酸素マスクによる酸素投与に切り替え
治療が続けられました.

閑話休題

延命治療について話題になる時
人工呼吸は、単なる延命だと悪く言われることがあります.
また現場の医療スタッフには、人工呼吸器を
いったん装着したら、たとえ家族の希望があったとしても
人工呼吸をはずすことで訴訟の危険があるのではないかと
無用な恐怖に捕らわれたりします.

本来、人工呼吸というのは、治療の手段であり
他の治療でどうしようもない時に、
人工呼吸によって改善する例もあるのは明らかです.

非侵襲的呼吸療法を用いれば
気管挿管を使用せずに、通常の酸素マスクのような感じで
呼吸器で、呼吸補助を行うことができて
単なる延命ではなく、今回紹介した事例のように
目の前の患者さんの、呼吸の苦しみをとることができるのです.
これも緩和ケアだと考えています.

延命するかしないかという二者択一ではなくて
人工呼吸器を使うか使わないかという二者択一ではなくて
心臓マッサージを行うかどうかという二者択一ではなくて
あくまで病に苦しむ目の前の患者さんの
苦痛を少しでも和らげることができないか、
そういう視点から
患者さんのケアをもっと見直す必要があると思います.

延命をしないということであっても
患者さんの苦しみを緩和するケアは
続けていくべきであるし
それを行うのが現場の医療スタッフですから.

参考までに、ここで紹介した呼吸器によるBiPAP治療法は
心不全の治療だけでなく
気管支ぜん息発作にも有効です.

気管挿管を必要としない分、迅速にマスク装着だけで
呼吸療法が開始できるため
救急時の対応には適していると思います.

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by yangt3 | 2007-03-04 00:08 | カテーテルの話題