もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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日本の医療に未来はあるか

少数をもって多数の敵を討つというのは
日本人の好む所です.

織田信長の桶狭間の戦いが然り.

歴史的には、興味のあるところでしょうが
こういった奇襲作戦はあくまで特殊な例でしょう.

やはり戦いの前に、よく研究をつくし、敵を知り
相手よりもより多くの物資と人員を整えて
戦いに臨むのが王道だと思います.

「要するに三、四〇〇〇年前から戦いの本質というものは
変化していない.戦場につくまでは補給が、
着いてからは指揮官の質が、勝敗を左右する.」
(銀河英雄伝説 黎明篇 ヤン・ウェンリー)

日本の医療問題も、医師、看護師の資質について
議論されることが多いのですが
医療に置ける補給の問題、つまり財政そして
ロジスティクスを忘れてはならないと思います.

ロジスティクス
Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/ロジスティクス

日本の医療に未来はあるか_a0055913_06348.gif





前回ご紹介した「大学病院革命」も
大学医局の解体、改革、メディカルスクールへの昇華という議論であり
つまるところ医師の資質をいかに向上させるか
ということだったと思います.

医師一人を要請するためには、多くの税金が使われているわけで
さらに今の大学医局を改革し
メディカルスクールを創設するとなると
その財源はどうなるのか.
無い袖はふれないわけで、実現のためには
経済的基盤の話は避けて通れないと思います.

臨床研修の指導医や中心となる医師の再教育の問題や
看護士さんの再教育についても
政策として行うのであれば、その財源についての議論が必要です.

昔、日本の医療の黎明期には
ドイツや欧米の進んだ医学を学ぶために
多くの医師たちが公費留学を果たしていました.

教育にも費用がかかるのは当然のことだと思います.

大学病院や大きな病院だけでなく
地域の病院においても、地域医療のニーズに応える為には
必要な医師数をそろえ、看護士、スタッフもそろえ
日進月歩の医療機器の進歩にも対応しなければなりません.

少なくとも地域で救急医療の一端を担うためには、
CTやMRなどの医療機器が必要になります.
循環器救急に対応するためには
カテーテル治療のための設備が必要であり
血管内超音波装置、人工呼吸器やIABPなどの医療機器も
必要になります.

24時間対応を可能にしようと思えば
各専門医師のオンコール体制を考える必要もあり
機械だけでなくその人件費も必要になります.

理想をいえば、24時間日本のどこでも
大都会でも地方でも各科専門医師に迅速にアクセスでき
もしくは救急専門医が常に当直すれば
そして常に各医療機関に最先端の医療機器が完備していれば
日本の救急医療はもっと素晴らしいものになるでしょう.

この理想を実現している病院は本当に少ないでしょう.

医療の質を上げていくためには
医学部教育、臨床教育、生涯教育によって医師の資質を上げて
なおかつ
理想の医療のため費用が必要になるということです.

経済学、財政の問題、ロジスティックスに基づいた
もっと冷静な現実的な議論も重要だと思います.

ドクターヘリプロジェクトについても
その有用性が十分に理解されながら
実現に時間がかかっているのは
ひとえにその多大な費用の問題があるからです.

急性心筋梗塞においても超急性期の脳梗塞においても
迅速な検査と迅速な治療が
救命につながり、その後の良い経過に繋がると考えられています.

脳梗塞の早期診断のためには、従来のCTだけでは不十分であり
高性能のMRIによる診断も必要です.
脳外科専門医による早期のMRIによる診断により
TPAによる早期の治療が可能になります.

狭心症、虚血性心疾患の診断においても
最近は、64列MSCTと呼ばれる高性能CTによる診断が徐々に
広まっています.
カテーテル治療に必要な血管造影装置もどんどん
高性能となっています.
より正確でより高度な診断、治療を行っていくためには
こうした高度で高額な医療機器を
病院にどんどん導入していく必要があります.
病院にとっては、大きな経済的な負担になるわけですが
よい医療を行う為には、必要な設備投資になります.

医師、スタッフもこうした医学の進歩に対応するべく
本当に毎日が勉強です.
私の同僚、先輩、そして私の知る近隣の医師たちは
本当に勉強熱心なのです.

そんなわけで「大学病院革命」に引き続いて
読了した本を紹介します.

日本の医療に未来はあるか
ー間違いだらけの医療制度改革

ちくま新書

鈴木 厚

日本の医療に未来はあるか_a0055913_071626.gif


書店に現物はなく、私は、大学病院革命やその他の書籍とともに
アマゾンで注文しました.
アマゾンに掲載されていた著者による説明があります.

  日本の医療には多くの問題がありますが,
 枝葉の問題に目を奪われ,根本的問題に迫ろうとしない,
 あるいは根本的問題がどこにあるのか分からないのが
 現状だと思います.
 国民の医療に対する危機感はあまりに希薄です.
 病院が経営難から廃院となれば住民が困るのに,
 病院が廃院になる現状を住民は知らないのです.
 これまでの日本の医療があまりに恵まれていたため,
 これから予想される医療改悪を想像できないのだと思います.
 医療問題を議論する,あるいは医療問題を解決させるためには
 正確な現状把握が必要です.国民は医療に強い関心を持ちながらも,
 「医療のあるべき姿」が議論されていないのです.
 ところでイラク戦争でアメリカは軍事大国のイメージがありますが,
 アメリカの軍事予算は国家予!算の約19%です(日本は6%).
 いっぽう福祉・医療関連の国家予算は52%です(日本は20%).
 つまりアメリカは軍事大国というよりも福祉大国なのです.
 日本の医療は世界一と自慢していますが,それは患者にとって世界一であり,
 医療関係者にとっては最悪の労働条件が続いています.
 私は日本医学会総会のシンポジウムの前で,
 本書を自費で1000冊無料配布しました.
 日本医学会総会のシンポジウムでは厚労大臣,
 日本医師会長などが講演をしましたが,彼らはきれい事しか言えず,
 出来合レースになると予想したからです.
 事務のお嬢さんたちが10人ほど手伝ってくれ,
 心配していた配布は無事終了しました.
 医療に対する私の考えが正しいかどうかは読者に判断してもらうとして,
 本書が危機的日本の医療に対する国民的関心の呼び水になればよいと
 考えています.
 織田信長が桶狭間の戦いで歴史を変えたように,
 一介の医師が書いた本が混迷する日本の医療を変える可能性は
 ゼロではありません.
 私には私心はありません.金も命も名誉もいりません.
 ただ日本の医療が良くなることだけを念じています.
 本書を読んで頂けることを切にお願いします.
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本書の中身については
いろいろと吟味、議論をするべき点があるとはいえ
医療問題を多面的に考えるには適当な参考書になると思います.

本書に、このように述べられています.
「日本の医療をどうするかは、最終的には国民の判断になります.
 しかし医療のあるべき姿を国民に提示するのは、現場の医師の
 責任になります.国民がもつ医療への不信を払拭し、
 さらには日本の医療を少しでも良くする事が、
 現場を知る医師の責任だと思います.」
「閉塞した現状をあきらめず、他人任せにせず、
 この崩壊への流れを断ち切るために
 一人一人が立ち上がる事が必要なのです.」

私は、医療問題も、もっとロジスティックス、補給問題について
もっと丁寧で正確な議論が必要だと感じました.

日本の国民皆保険制度をこれからも守り抜き
日本を医療大国、福祉大国にするべく
とにかく議論を進めるしかないと思います.
by yangt3 | 2007-07-30 00:07 | 皆さんに紹介したい本