もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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急性心筋梗塞への新たな取り組みーフィルトラップの使用経験

私たちのような地方の病院の使命として
最初の救急対応をきちんと行うということがあります.

当院は、循環器のカテーテル検査・治療が可能な病院として
循環器救急にもできるだけ
対応できる体制作りに勤めています.

マンパワーや設備に限界があり、心臓外科を併設していないため
重症患者においては、当院で、必要な処置、治療を
行った後に、近隣の期間病院に搬送という手順になります.

10月のカテーテル治療実績を振り返ってみると
実に急性冠症候群、急性心筋梗塞症例が
3割近くを占めていました.

当院の循環器診療の実際において
いかに緊急対応が大きなウェートを占めているかと
いうことです.

急性心筋梗塞、急性冠閉塞への対応システムには
特に意を尽くしていて
カテ室コール15分で、カテがスタートできる体制を
この2年で作り上げました.

今回、さらに急性心筋梗塞の治療について
新たな取り組みを行いました.

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急性心筋梗塞や急性冠症候群においては
不安定プラークの破綻と急激な冠動脈血栓形成が
病態の発生の原因となっています.

言葉を変えればスタチン治療などで
安定したプラークは、こうした破綻にいたることがなく
急性心筋梗塞や急性冠症候群を発症するリスクが
少ないという事になります.

逆に不安定プラークと呼ばれる病変では
冠動脈血管壁に、コレステロールや参加資質物質が
どんどん蓄積されて「脂質コア」と呼ばれる
危険な病変を形成しています.

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スタチン投与による適切な高脂血症の治療により
こうした不安定狭心症の原因となる不安定プラークを
安定化させて急性心筋梗塞や急性冠症候群の発症を
未然に防ぐというのが、循環器外来での治療の
大きな目的の一つでもあります.

さらには急性心筋梗塞や急性冠症候群を引き起こす前に
いかにして、これらの危険な不安定プラークを
より低侵襲な手段で検査、発見することができるかというのも
現在の大きな研究課題となっています.

通常の冠動脈造影のみでは、不安定プラークの診断には
不十分であり、血管内超音波(IVUS)と呼ばれる検査を
行う事でより確実な診断が可能です.
しかし、全ての患者さんの検査に、この血管内超音波を
行うのは、非現実的であります.

現在最も注目されているのが
64列CTを用いた冠動脈CTによる不安定プラークの
診断です.将来、よりデータが蓄積されれば
不安定プラークの診断が、より簡単なCT検査で
より正確につけられるかもしれません.

現状では、とにかく緊急で搬送される
急性心筋梗塞症例や急性冠症候群症例に
いかに迅速に、きちんと診断と治療が行えるかという所に
重点を置いて診療に望まなければなりません.

急性心筋梗塞では、プラーク破綻による
多量の新鮮血栓により冠動脈が完全閉塞しています.

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冠動脈の血流を再開させるためと
血栓が冠動脈末梢に流れて、末梢冠動脈を閉塞し
さらなる合併症や心筋梗塞の発症を引き起こす事を
防ぐ為に、最近では、カテーテルでもって
この多量の冠動脈血栓を吸引除去しています.

具体的には、AsprayやThrombuster と呼ばれる
専用の血栓吸引用カテーテルを用いています.
こうしたカテーテルを使って血栓吸引を行うと
実に多量の血栓を取り除くことができます.
このような血栓は赤色血栓と呼ばれます.

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これほどの大量の冠動脈の血栓を放置すれば
どのようなことになるかは、いうまでもないことです.

ある症例で、このようにカテーテル血栓吸引を行ったところ
赤色血栓ではなく、まさしくプラーク内の
コレステロールそのもの、脂質コアと呼ばれる部分そのものが
吸引されたことがありました.

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このような血栓は白色血栓と呼ばれて
同様にプラーク破綻の原因となるばかりか
血栓物質が冠動脈の末梢に流れて
大きな合併症を引き起こす鯨飲となります.

こうした症例の冠動脈を血管内超音波(IVUS)で詳細に検討すると
脂質コアの脂質の部分が血栓となって抜け出た
まるで抜け殻のようになった不安定プラークを
観察することができます.
矢印で示した部分が脂質が血栓となって
抜け出た部分になります.

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急性心筋梗塞や急性冠症候群の症例においては、
赤色血栓のみならず、不安定プラークからこうした白色血栓を含む
さまざまな血栓が末梢に流れ出て
冠動脈末梢を障害するおそれがあります.

たいていの場合、カテーテル血栓吸引で対応可能ではありますが
もちろん100%確実ではありません.

こうした冠動脈病変から漏れでたプラーク塞栓による
さらなる冠動脈障害を予防することを
末梢保護と呼んでいます.

これまでに GuardWireシステムと呼ばれる
末梢バルーン閉塞デバイスが実用化されています.

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これは、冠動脈の末梢で治療の際に、専用のバルーンを
膨らませる事により、病変、プラークから流れた様々な
血栓、塞栓物質を、末梢に流れないようにするための
専用器具です.
冠動脈内の専用バルーンでせき止められた
血栓や塞栓物質は、血栓吸引カテーテルで吸飲除去するという
段取りです.

問題は、この末梢保護デバイスの使用がかなり複雑であるということと
より細い冠動脈末梢血管で、バルーンを閉塞することによる
冠動脈への障害が懸念されること.

基本的には、バルーンで血栓や塞栓物質を食い止めても
それを除去する手段は、これまで通りに
吸引カテーテルであること、などが問題となっていました.

実際には、このGuardWire 末梢保護システムを使いこなすには
かなり煩雑で、急性心筋梗塞の治療には
なかなか使いにくいという印象があって
私たちのカテ室では、もっぱら血栓吸引カテーテルによる
治療が主でした.

今回、新たなコンセプトで作られた末梢保護専用の器具として
血栓異物除去用カテーテル「フィルトラップ」
(ニプロ、日本ライフライン)を使用する機会が
ありました.

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これは、先端が金属製のバスケット構造となっていて
浮遊する血栓や塞栓物質を、フィルターとなって
捕捉し除去する専用器具です.

例えば総胆管結石の内視鏡治療において
バスケット鉗子と呼ばれる器具を使いますが
ちょうど似たような構造となっています.

同様のコンセプトで、一時か大静脈フィルターも
こうしたバスケット様の構造となっています.

今回使用した症例は、不安定狭心症です.

左前下行枝に多量の脂質コアを含む不安定プラークを
認めました.
血栓吸引カテーテルだけでは対処が困難と考え
この新しいデバイスであるフィルトラップを使用しました.
図(冠動脈造影)
血管内超音波で病変を確認すると
病変内に多量の脂質コアを認めました.
通常通りの治療では、多量のコレステロールを含む
血栓、塞栓物質が末梢に飛んで
多大なる合併症を引き起こすものと懸念されました.

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フィルトラップと呼ばれる末梢保護デバイスを
今回使用しました.

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予想通り、通常のバルーンによる拡張を行っただけで
多量の血栓が、フィルトラップのバスケットの中に
捕捉されました.
フィルトラップ内に多量の血栓が捕捉されたため
フィルターより末梢の血液の流れが悪くなっています.

すぐにステント植え込みを行い
カテーテル血栓吸引を行ったあとに、フィルターに捕捉された
血栓ごと、このフィルトラップ血栓除去システムを
体の外にだします.

微細な血栓もきちんとフィルターの中に捕捉されて
大きな合併症を起こす事なく
治療を終了することができました.

この症例はステント植え込みにより
良好な拡張を得ています.

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こちらが治療終了後に体外に取り出した
フィルトラップです.
フィルターの先端に、血栓物質が捕捉され
詰まっています.

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これらの塞栓物質、血栓物質を除去することなく
末梢に流れ込んでいたら
また大きな治療の合併症に繋がったと思われ
改めて
フィルトラップによる末梢保護を併用した
治療の有用性を再認識しました.

当院では、緊急の治療症例が多い為
血栓吸引カテーテルだけでなく、
今回使用したフィルトラップを用いて治療を行う事で
より安全で確実な緊急治療が可能になると思います.

どのような緊急症例に、今回使用したフィルトラップが
有用であるかは、これから検討を重ねたいと思います.

当院では、緊急症例もほぼ100%近く、血管内超音波(IVUS)を
使用して治療を行っています.

今後、冠動脈造影にて、多量の冠動脈血栓を認めた症例には
まず血栓吸引カテーテルで対応し
引き続き行うIVUSの所見で
今回のような不安定プラークを認めれば
さらにフィルトラップを併用して
緊急治療を行うというストラテジー(治療戦略)を考えています.

フィルトラップの使用方法については
諸先輩方の経験を、積極的に取り入れていきたいと思います.
by yangt3 | 2007-11-05 08:51 | カテーテルの話題