もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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医療再生

どこの病院でも看護師や医師の不足、慢性的なスタッフ不足に
悩んでいます.

私たちの病院がある岐阜県の統計で見てみると
平成18年12月31日のデータで
医師数は全国平均217.5人に対して179.9人、全国順位は42位
看護師・准看護師数は全国平均934.6人に対して890.9人と
なっています.
 参考;岐阜県、県勢の100の指標
 http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/s11111/shihyo/shihyo.htm

地方の病院で現場を支えるために
いかにして必要な医師、看護師などの人員を確保するかが
緊急の課題となっています.

人手不足からさらに仕事がきつくなり「辞めたい」と考える職員も
増えることになります.

------YOMIURI ONLINE 2008.04.13
看護師半数「辞めたい」…県医療労連調査、人手不足が深刻
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kumamoto/news/20080412-OYT8T00536.htm

医療再生_a0055913_7431343.gif






熊本の話です.

 看護師や医師の不足が社会問題となる中、
 熊本県医療労働組合連合会が組合員の看護師らを対象に
 行ったアンケートで、「職場を辞めたいと思うか」との問いに対し、
 「いつも思う」「時々思う」と答えた人が
 全体の半数近くに上った。
 診療報酬改定に伴う看護師の配置基準見直しで絶対数が不足し、
 過密労働を強いられている実態が背景にあるとみられ、
 同連合会は、看護師、医師不足対策に関する要請書を
 潮谷熊本県知事あてに提出した。

 厚生労働省は06年4月の診療報酬改定で、
 「入院患者7人に対し看護師1人」という
 手厚い配置をした病院には入院基本料を上乗せする新基準を導入した。
 その結果、全国で看護師の奪い合いが起き、
 地方の病院を中心に看護師不足が深刻化している。
 熊本県内でも08年は3万1168人の需要に対し、
 2584人の不足が生じている。
 (中略)

 看護師の退職率が高い原因については、
 「仕事が忙しすぎる」
 「主に勤務時間外に看護研究・勉強会を半強制される」
 「賃金、手当が安い」
 「年休や育児・介護休暇などが取りにくい」などの順で多かった。

 要請書では、
 ▽医療費抑制政策をやめ、医師や看護師など
  医療従事者を大幅増員する
 ▽看護師不足の実態調査▽女性医師や看護師が
 働き続けられるよう院内保育所を完備する――などを求めている。
 (後略)
---------------------------------------------------------------------------
看護師が患者さんの看護に専念し、医師が患者さんの診療と治療に
専念するということが理想だと思います.

問題は、さまざまな医療の場面において、医師や看護師の
事務作業がどんどん増えていることです.

診察、検査の予約から始まって
診断書の作成、保険会社への診断書作成、紹介状、回答書の作成などなど
書類の仕事量が非常に多いです.

看護師さんも同様であり、カルテの記載、看護記録の記載に追われ
勤務時間が過ぎても、ずっと職場に残って
カルテ書きをしている看護師さんの姿はよく見慣れた風景です.

電子カルテやオーダリングも、かけ声ほどは普及は進まず
やはり相変わらず、伝票や書類に追われています.

以前につとめていた病院ではいわゆるクラークさんと呼ばれる
医療費書というか医療クラークさんが多数努めていて
診療介助をしてくれて
本当に助かっていました.

医師の指示に従っての伝票書きや予約などを行うほか
患者さんの話を聞いて、簡単な予診を取ったり
医師の指示であらかじめ必要な検査(心電図やレントゲンなど)の
手配をしてもらっていました.

病棟では、たとえばたくさんの検査伝票の結果などは
医師や看護師が業務の合間にカルテに貼付けていたりするのですが
病棟クラークさんがいれば
こうした事務作業も手伝ってくれて
医師も看護師もより多くの時間を患者さんのために
使うことができます.

ちなみに私の知人の外科医で院長となっている方には
個人秘書がついているそうです.(うらやましいですね)

--------毎日jp 2008.04.18
医療費が足りない/4 医師支える事務員
http://mainichi.jp/select/science/crisis/news/20080418ddm002040071000c.html

 今年2月、岩手県立千厩病院(一関市)泌尿器科の診察室。
 阿部俊和副院長(現国保金ケ崎診療所副所長)は診察しながら、
 「薬は前回と同じ」「次の予約は4週間後」と、
 横に座る医療クラーク(事務員)の女性に、
 処方せんや診察予約の指示を伝えた。
 医療クラークは手際よくパソコンに入力していく。

 「医療クラークが事務作業を処理してくれるお陰で、
 患者に向き合い、集中できる時間が増えた」と、
 阿部医師は医療クラークの良さを説く。

 医療クラークは医師の指示で、
 カルテの記載や処方せん発行、保険会社への診断書作成など
 主に事務作業を行う。
 海外では普及しているが、日本の病院にはほとんどいない。

 情報開示や医療事故対策が進むにつれ、
 医師の事務作業が増えている。阿部医師は
 「ここ10~20年で書類の作成量が3倍くらいに増えた」と話す。
 負担の重さは、勤務医の病院離れにもつながる。

 岩手県は医師確保対策の一環として昨秋、
 県立3病院に試験的に医療クラークを導入、
 千厩病院にも2人を配置した。
 今年度からは県立の21病院に、
 医師数や病床数に応じて10~1人を導入した。

 国も今年度から、医療クラークの人件費を
 診療報酬の加算で補う制度を始めたが、
 伊藤達朗千厩病院長は「診察時間を従来より多くでき、
 患者にとってもメリットが大きい。
 医師1人当たり医療クラーク1人を目指すべきだ」と訴える。
 
 米ピッツバーグ大に留学中の津久井宏行医師(37)は、
 上司の外科医や2人のPA
 (Physician Assistant=医師助手)とともに、
 4人で年間450~500例もの心臓手術(開心術)をしている。
 日本ではこれほど多くの手術をこなす病院は少ないが、
 津久井医師は「精神的にも体力的にも非常に余裕がある」と話す。
 なぜ余裕があるのか。

 鍵を握るのは、日本にはないPA制度だ。
 PAは米国の国家資格で、医師の監督下で診察や治療、
 検査の指示、処方せん発行などができる。
 津久井医師の同僚のPAは、手術の第1助手、
 検査データ分析などの術後管理、病棟回診までこなす。
 全米では7万人近いPAが働いている。

 米国の病院では、多様な職種が医師を支える。
 通常の看護師より専門的な資格で、
 処方や簡単な処置を行える
 「Nurse Practitioner=公認看護師」もいる。
 呼吸管理、点滴などを行うための「静脈ライン」確保、
 院内の患者搬送など、それぞれに専門職がいる。
 医療クラークに相当する医療秘書もおり、
 ほとんどすべての医師に秘書がつくという。

 津久井医師は月曜から金曜まで毎日手術をするが、
 術後管理や書類作成などはPAらが担ってくれるため、
 早い日は午後4時に帰宅することもある。
 長期休暇も年に4週間くらいは取れるという。

 津久井医師は「病院では、ほとんど手術室にいる。
 米国の心臓外科医は、まさに手術をするためにいる」と話す。
 そのうえで現在の状況をこう表現した。
 「労働時間は日本の半分か3分の2で、年収は最低でも2~3倍だ」
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アメリカの制度を医療制度の異なる日本にそのまま
応用するというのは、無理なことであり
さまざまな専門職が働く分、医療費の増大もあることも
考えなければなりません.

それにしても医療クラークや診療介助を行う事務職の導入が
今の医療現場に 「精神的、肉体的余裕」を
与えてくれると思います.

私の個人的体験をいえば
研修医の頃に出会った医療クラークの人は
ベテラン医師や、看護師と同じくらいに
通院、入院される患者さんのことを把握しており
かつ顔見知りとなっていました.

初めて診る患者さんのことは
分厚いカルテをめくるよりも、そのクラークさんに聞く方が
より役に立つ情報が得られたものでした.

残念ながら、私が今 働いている病院では
専門の医療クラークさんはほとんどいません.

できることならば、今後 こうした専門職が
私の努めている病院でも増えることを願うものです.

基本は医療の現場を支えるために
さまざまな能力を結集するべきということだと重います.

事務職とはいえ、病院の一員として働くということは
ある意味医療を支えるということでもあり
患者さんのために働くということで
やりがいがあることだと思います.

医療クラークが事務作業を処理してくれれば
医師も看護師も、患者に向き合い、集中できる時間が増えて
引いてはスタッフの余裕もできて、離職率の低下になると
思います.

 医療再生は可能か
 ちくま新書

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 川渕 孝一  著

 ーいまや瀕死にあえぐ日本の医療制度。
 少子・高齢化で膨らむ医療費を抑制しようと
 制度改革を繰り出す政府、薄利多売の過重労働から
 病院を逃げ出す医師たち、必要な医療が受けられず
 難民化する患者、払えなくなった保険料を放棄する国民。
 日本の医療システムを救う道はあるのだろうか。
 本書では、現実と乖離してしまったシステムの問題点を整理、
 もっと効率よく質の高い医療を実現するにはどうしたらいいのか、
 主に「医療費」の側面から提言する。

 目次
 第1部 誰も幸せにならない医療システム(医師不足のからくり
 努力する者が報われない日本の診療報酬
 国は一体何をしているのか
 医療格差の現状と課題
 患者が日本の病院を見捨てる日)
 第2部 健全な医療財政のための提言(公的医療保険でどこまで面倒を見るのか
 後期高齢者医療制度に必要な三つのヒント
 まだまだ医療費は削減できる!?
 医療の「見える化」をめざして)

この本の著者は医師免許を持つ医療経済学者です.
従ってこの本の基調としては、主に医療経済学からの観点です.

改めて現状を医療経済学の側面から俯瞰するための良書といえます.

医療の「見える化」を推進するということを提言しておられますが
まだ今ひとつ、現実的な方策が見えてこないのは残念です.
現状の救急や現場の分析可能なデータが少ないということでしょう.

国が自分に何をしてくれるのかが不透明な今
市民としても医療従事者としても
個人の力を蓄えて、来るべきカタストロフィーに備える
必要があるのでしょうか.
by yangt3 | 2008-04-21 07:44 | 一般