もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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自分の細胞から透析シャント作成

患者自身の細胞を使って最新の細胞工学の技術により
血液透析用のシャント作成が成功したそうです.

ご存じのように血液透析は慢性腎不全の最も重要な治療です.
血液透析を定期的にかつ持続して行っていくために
血管を太くする手術、すなわちシャント作成手術が必要となります.

 1)血液透析について(国立循環器病センター 循環器病情報サービス)
 http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/Sick/sick56_1.html

透析を受けている患者さんにとっては、このシャントが命の絆となります.
シャントが詰まると透析ができなくなり腎不全の悪化を招いてしまします.

透析導入された患者さんは、腎臓移植などの手術を受けない限りは
生涯にわたり透析治療を続けなければ成りません.

そのためにシャントの良好な作成と良好な状態に保つことが本当に大切なのです.

もしシャントが詰まったり流れが悪くなれば
カテーテル治療を行うか、もしくは別の部位に新たにシャントを作成します.

場合によっては何度もシャント作成手術が必要になることもあります.

なかにはシャント作成が難しい患者さんもいらっしゃって
そういう意味でも今回のニュースは朗報ではないでしょうか.
 
 2)患者自身の細胞から透析用の血管移植片シャントを作製
 http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm

自分の細胞から透析シャント作成_a0055913_0491094.gif





(以下、記事からの引用です)

 ー患者自身の細胞を用いて組織工学により作製した
  血液透析用シャントに良好な成績が認められたことが、
  英医学誌「The Lancet」4月25日号に掲載された。
 
  現在、透析患者の約半数は合成樹脂性チューブのシャント
 (動脈と静脈を結ぶ管)を通して週3回の透析治療を受けているが、
  合成樹脂は患者自身の静脈で作ったシャントに比べて
  長持ちしにくいという問題がある。

  また患者の半数は、自己静脈がシャント作製に適していない。

  今回の研究を率いた米Cytograft Tissue Engineering社
 (カリフォルニア州)のTodd N. McAllister氏によると、
  合成素材をいっさい使用せずに作製された血管移植片(vascular graft)に、
  長期移植に耐える強度および耐久性が認められたのは
  今回が初めてであるという。

  今回の研究では、透析を受ける末期腎疾患(ESRD)の患者10人に
  このシャントを使用した。
  被験者は全例、過去にシャント移植に失敗したか、
  合成樹脂シャントの使用が必要な患者であった。
  患者の手の甲から採取した細胞を培養して細胞シートを作り、
  これを管状に形成して患者に移植した。
  3カ月にわたりこのシャントの安全性、安定性を追跡した後、
  透析開始後の有効性を評価した。

  その結果、安全性を確かめる段階で3例のシャントの機能に
  問題が生じたほか、1人が試験を中断、
  1人がシャントとは無関係の原因により死亡した。
  残る5人については、6~20カ月間にわたり
  移植片を透析治療に使用することができた。
  シャントの開通を維持するために外科手術を必要としたのは
  1人だけであった。
  全体では、7人が1カ月以上、5人が6カ月以上
  シャントを使用することができ、
  標準に近い性能が認められた。

  McAllister氏によると、透析患者の平均余命は約6年であり、
  自己静脈から作製した血管移植片を1~2回使用した後、
  合成樹脂チューブの移植が必要になるという。
  合成樹脂チューブは約12カ月しか持たないのに対し、
  この新しい血管移植片は1~5年使用することができ、
  患者の細胞を保存しておけば必要に応じて
  新たに移植片を作ることもできる。作製費用は高価だが、
  使用できる期間を考えれば費用対効果がよく、
  作製を効率化すればさらに費用を削減することも可能だと
  同氏は述べている。
  なお、実用化には3、4年かかると予測している。
  同社はこのほか、冠動脈や他の血管損傷の修復用血管についても
  研究中だという。
 (後略)
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血管治療分野での、こうした細胞工学技術の進歩が期待されます.

記事にもあるように透析シャントのみならず
冠動脈や他の血管損傷の修復用血管が実用化すれば
さらに治療の安全性が高まることが期待されますね.

こうした最新の医療技術の進歩を
地方の病院で実現し実践するには、まだまだ先のことになりそうですが
ある意味、医学の進歩には楽観的な希望をもって
日々の仕事に励んでいきたいと思います.

今は夢のように思える研究も
着実に研究が進められ、技術も進歩して臨床の現場に登場することになります.

私の場合は、循環器病という狭い窓からだけですが
それでも最近の医学の進歩に、人類の英知のすばらしさを感じます.

進歩に追いつくのは大変ですが
精一杯見届けていきたいですね.

自分の細胞から透析シャント作成_a0055913_0511754.gif

by yangt3 | 2009-05-02 00:49