もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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DESかBMSか?

平成16年の8月に 多くの期待と喝さいをもって
日常臨床に登場した薬剤溶出ステント Cypherですが
先日の日経新聞のニュースでも報じられたように
じつに90%以上に、この薬剤溶出ステント Cypherが
用いられています.
平成16年8月のCypher 認可前は、
実費負担で、早々とCypherを植え込む病院もあり
我先に 日本で始めて薬剤溶出ステントを使用したと
マスコミに宣伝するような先生も見かけました.
一般の先生は、8月の認可まで辛抱強く待ち
治療を待つことのできる患者さんにおいては、治療を延期し
満を持してCypherの植え込みが全国で一斉に行われていました.
急激に全国で大量の薬剤溶出ステントが使用されるようになり
認可されてしばらくは、十分に薬剤溶出ステントが
手に入らない状態も続きました.
その頃の勉強会、研究会では、薬剤溶出ステントの登場により
バイパス手術が不必要になる、心臓外科医がいらなくなる、といった
エキセントリックな議論もなされていました.
従来のステントであれば、再狭窄などの理由でバイパス手術となっていた
左主幹部、分岐部などの症例も薬剤溶出ステントCypherにて
循環器科医のなかでは、うまく治療ができるはずであるといった楽観論が
主流になっていました.
治療の際に薬剤溶出ステントを使用しないで、従来の非薬剤溶出ステントを
使用して、症状が再発、再狭窄となった場合に訴訟になることも
考えられると、さらに過激な議論も起こっていました.

そして.....

薬剤溶出ステントが使用されはじめて1年半近くがたち
改めてその再狭窄率の低さ、再発の低さが再認識されてきました.
それと同時に薬剤溶出ステントのいまだ解決されていない問題が
クローズアップされています.
ステント植え込み後のSAT Subacute thrombosis(亜急性血栓症)の
問題については、従来のステントと変わることなく、
薬剤投与と、十分なステント植え込み手技にて回避可能であることも
わかってきています.
現在解決されていない問題としては、
やはり Late DES thrombosis、薬剤溶出ステントの慢性期血栓症です.
一時は、なんでもかんでも全部薬剤溶出ステント Cypherを植えるといった
勢いでしたが、最近では、薬剤溶出ステントをあえていれない、
従来の非薬剤溶出ステントをあえていれるといった専門医もみかけます.
あれだけ、薬剤溶出ステント登場の際に、大騒ぎしていた先生がたが
今 Cypherを見捨てて、古い治療法に戻るのはいったいなぜでしょうか.
彼らの議論の根拠としては、Late thrombosisの問題が解決できないため
一生 坑血小板薬(パナルジン、バイアスピリン)を続ける必要があり
手術などの際の坑血小板薬中止の際の血栓発生が心配である.
また従来の非薬剤溶出ステントでも、拡張後の内腔がしっかりとれれば
再狭窄率も十分に許容範囲である. といった点です.

そしてたしかに最近の循環器のライブなどを見ても
薬剤溶出ステントをいれずに従来の非薬剤溶出ステントをいれる場面をまま
目にすることが増えました.

再狭窄、再治療に関して言えば、Cypherの成績は当初の予想通り
非薬剤溶出ステントを凌駕しています.
とくにびまん性病変などでは、明らかです.
以前にシンガポールで大学病院の見学をしたことがありますが
かの地では、コストの問題で薬剤溶出ステントが使用できない、
コストの問題で血管内超音波も使用できない、ということでした.
日本では、幸いに保険制度のおかげで、シンガポールのようなことはありません.
使用することにより明らかにアドバンテージのある
薬剤溶出ステント、血管内超音波を使用するのは
臨床医の義務であると思います.

もし私が患者であれば、薬剤溶出ステントを入れてもらいます.
左主幹部などの治療においては、薬剤溶出ステントを用いることが
重要だと思っています.

現状では、左主幹部の治療は、いろいろと議論のあるところであり
特に左回旋枝などの分岐部を含む複雑病変に対しては
満足なカテーテル治療の結論がでていません.
糖尿病の患者さん、透析患者さんの石灰化の強い病変については
薬剤溶出ステントCypherでも再狭窄率がやはり高くなります.
これらの問題はあるとしても再狭窄率をさげるという
利点はすごいことです.
また通常の病変、および細い血管病変においても
従来の非薬剤溶出ステント(BMS)のように過拡張をする必要がなく
穿孔などのリスクを減らしつつ、十分な慢性期の治療効果が
期待できるというところも薬剤溶出ステントの利点です.

現在使用できる薬剤溶出ステントは、Cypherのみです.
十分に再狭窄率を下げるということでその役割は果たしていますが
Late thrombosisなどの問題が残っています.
あくまで仮定の話ですが、これらの慢性期の合併症については、
ステント薬剤のコーティング、ポリマーなどの技術的な問題がからんでいると
思われます.複雑なステント植え込み、頻回の高圧拡張などにより
特に分岐部などのストレスのかかる部分では、現状のステントでは
ポリマーの剥離が起こることが指摘されています.
しかし、これらはあくまで技術的問題です.
さらなる第2世代、第3世代の薬剤溶出ステントが開発されていき
さらに改良されたポリマー技術、コーティング技術が開発されれば
乗り越えられる問題だと思います.

坑血小板治療を続けることに関しても
その重要性を患者さんが理解していただければ、現状では
問題ないと思われます.実際、私の患者でも必要性を理解して
服薬を続ける方がほとんどです.
手術などの突発的なイベントの際の坑血小板薬などの管理は
循環器科医が中心として管理すれば、特に問題なく
乗り切れることであると思います.
今の日本での議論は、まだ諸外国のように、クロピドグレルという
新しい坑血小板薬が使用できない状況下でのものであり、
クロピドグレルが日本でも使用できるようになれば
副作用の軽減なども合わせて、内服の管理が
さらに楽になると思います.

それだけに、今この時点では、重症の症例においては
心臓外科医にお願いしなければならない症例もあります.
循環器科医にとって、心臓外科医にバイパス手術を依頼することは
敗北であるかのような気風が一部にまだありますが
決してそんなことはないと思います.
現時点で 最良の医療を提供することが重要で
内科、外科にこだわってはいけないというのが私のスタンスです.
もちろん一度外科医に託した患者さんについては、
決して再発、再治療の必要のない、手術後は一生心臓の心配を
する必要がない、理想の手術をしていただくことを希望しています.
手術後に最初からグラフトがトラブルを起こすような議論は
本末転倒のような気がしています.

循環器科医としては、やっと手に入れた薬剤溶出ステントCypherを
その利点も欠点も十分に理解して使い続けていくつもりです.

循環器科 進
by yangt3 | 2006-01-18 20:57 | カテーテルの話題