もはや東可児病院循環器科の非公式ブログです(^.^)


by yangt3
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急性心筋梗塞、急性冠症候群の死亡率の改善

私が研修を始めた頃は
急性心筋梗塞の患者さんに対しては
すぐにカテーテル治療を行うよりも
まずウロキナーゼやヘパリンなどの投与を行う
非侵襲的な治療が主流でした.

医学部のポリクリ(臨床実習)で
循環器科をローテートした時にも
やっと急性期の冠動脈造影が行われ始めた頃で
少しずつPTCR (経皮的冠動脈再潅流療法)が
大学病院で行われ始めた頃でした.
(まったく時代掛かっていますね!)

PTCRというのは、冠動脈の入り口においた
カテーテルから血栓を溶解するための薬を
直接冠動脈に注入して治療する方法です.

その後、急性心筋梗塞、急性冠症候群の治療は
皆さんもご存知のように劇的な発展を遂げています.

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循環器の最近のこうした
治療の進歩が、実際に
患者さんの生命予後をどれだけ
改善しているかについて
JAMAに論文が掲載されていました.

-------------JAMA 2007.05.02.
Decline in Rates of Death and Heart Failure
in Acute Coronary Syndromes, 1999-2006

1999年から2006年にかけて
急性冠症候群における心不全や死亡率の
低下が認められた

Keith.A, A., Fox MB, ChB,RCCP et al.
Keith 先生らの研究

研究の背景;ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)と
 非ST上昇型急性冠症候群(NSTE ACS;
 非STEMIと不安定狭心症)の患者さんにおける
 最近の様々な治療の進歩、すなわち
 侵襲的カテーテル治療(PCI)と
 薬物治療の進歩が
 こうした急性冠症候群の治療にどのような
 臨床的な影響を与えたかは、まだ明らかでは
 ありません.

研究の目的;ST上昇型急性心筋梗塞と
 非ST上昇型急性冠症候群の病院でのこうした
 様々な治療の進歩が臨床的予後の改善に
 繋がっているかどうかを検討した.

研究方法;国際的コホート(観察)研究である
 Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)
 のデータを用い、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と
 非ST上昇型急性冠症候群の患者に対する
 治療と臨床転帰の経時的変化を検討した.
 1999年7月1日から2006年12月31日までに
 14カ国113病院で登録された、4万4372人の
 急性冠症候群患者
 (1万6814人がSTEMI、2万7558人がNETS ACS)を
 対象に分析を行った.

主要な臨床転機(アウトカム);エビデンスに基づく
 薬物療法と侵襲的治療のトレンドと臨床転帰
 (死亡、うっ血性心不全または肺水腫、
 心原性ショック、脳卒中、心筋梗塞)とした.

研究結果;研究機関を通じて各種治療薬剤の使用の
 頻度が増加した.
 (ベータブロッカー、スタチン、ACE阻害剤、
 パナルジン、GP IIb/IIIa 阻害剤、低分子ヘパリンなど)

 ウロキナーゼなどによる薬剤・薬理学的な冠動脈
 再潅流療法の割合は減少した.そのかわり
 初期(プライマリ)カテーテル治療や
 侵襲的治療の割合が増加した.

 心不全の発症や肺うっ血の発症は時代とともに
 減少した.心筋梗塞による死亡率も低下し
 心原性ショックの発症率も
 時代とともに減少した.

 発症後6ヶ月以内の心筋梗塞の再発、脳卒中の発症も
 減少が確認された.
 
研究の結論;今回の研究によって
 急性冠症候群の治療の進歩により、心不全や死亡率が
 著明に減少したことが確認された.
 発症後6ヶ月以内の心筋梗塞の再発や脳梗塞の発症も
 減少したことがわかった.
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昔、恩師 古高先生と
急性心筋梗塞、急性冠症候群のカテーテル治療を
始めた頃、まだ治療のための武器は
バルーンしかありませんでした.

現在と比べれば、冠動脈の病変を拡張するための
バルーンもはるかに性能が悪く
狭窄病変をバルーンが通過しないこともありました.

うまくバルーンで冠動脈病変を拡張することができても
かなりの率で、急性冠閉塞、冠動脈解離などの
合併症が起こり
バルーンによるカテーテル治療のあとに
すぐにまたカテ室に患者さんを緊急で
搬送するということもありました.

現在のような薬剤溶出ステントも
非薬剤溶出ステントもない時代のことです.

心臓の機械的サポートの危機も
やっとIABPが使えた頃で、
PCPS(経皮的人工心肺)は、まだ一般的では
ありませんでした.
重症の心原性ショックに至った場合には
心臓外科医に救急手術をお願いするか
外科的にLVAD(人工心肺)を装着してもらうかしかなく
心原性ショックにいたった症例の
生命予後は、あまり芳しいものではありませんでした.

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その昔、サッカーのワールドカップで
日本中が興奮と悲しみに浸っていた、あのドーハの悲劇のその日
一人の男性が心肺停止、心室細動で
救急外来に搬送されました.

心肺蘇生を行い、IABPを装着し人工呼吸を開始.
古高先生と二人で緊急心臓カテーテル検査を行ったところ
右冠動脈の起始部で完全閉塞を認めました.
この病変による急性心筋梗塞、心原性ショックから
心室細動、心停止にいたったと考えられました.

幸いにバルーン拡張によるカテーテル治療で
右冠動脈の再疎通に成功し
その後は神経学的な合併症を残すことなく
無事に改善し社会復帰されました.

今のように治療の道具も、心臓サポートも貧弱な環境で
古高先生と為した誇らしい仕事の一コマであります.

今では、さまざまな治療道具も、心臓サポートの機器も
豊富になり、病院前治療のネットワークも充実し
AEDの普及も相まって
こうした心原性ショックや心室細動に至った
急性心筋梗塞の治療成績は、かなり改善していると思います.

私個人的には、ここに紹介した
昔の救命した症例をいつも自らの励みとして
次々に病院に搬送されてくる
心臓病の救急に臆することなく
治療にとりくんでいます.

これから5年先、10年先には
さらなる技術や知識の進歩によって
どのような地平が広がっているのか
本当に楽しみにしつつ
目の前の治療にまた
頑張っていこうと思います.
by yangt3 | 2007-05-19 00:13 | 古高先生の想い出