血栓吸引と末梢保護
2008年 02月 08日
冠動脈インターベンションを行う際に
病変に多量の血栓が存在する場合には、治療手技による
末梢塞栓や No RelowおよびSlow Flowなどの合併症を
防ぐ為に、専用カテーテルによる血栓吸引が行われます.
急性心筋梗塞の血栓がどれだけ大変なものであるか
以前の記事でも紹介しています.
1)沸き上がる血栓 急性心筋梗塞の恐ろしさ
http://tomochans.exblog.jp/3917651/
2)血栓吸引カテーテル
http://tomochans.exblog.jp/3655307/
実際の治療では、末梢プロテクトバルーン、血栓吸引カテーテル
さらに最近では、フィルトラップと呼ばれる塞栓予防の
手技も併用しています.
3)急性心筋梗塞への新たな取り組みーフィルトラップの使用経験
http://tomochans.exblog.jp/6402020/
血栓吸引カテーテルの総説については以下を参考にしてください
4)血栓吸引カテーテルの成績とその適応
http://www.kessen-junkan.com/2005061302/22.pdf
日本国内で幅広く行われている血栓吸引療法ですが
以外にも急性心筋梗塞の治療においては、欧米での使用は
これまで限られていたようです.
今回、NEJMに、急性心筋梗塞の血栓吸引療法の評価の報告が
発表されていました.
これでも世界的にも、有効な治療であるということが
証明されたということになります.
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N Engl J Med 2008; 358 : 557 - 67 : Original Article.
初回経皮的冠動脈インターベンション時の血栓吸引
Thrombus Aspiration
during Primary Percutaneous Coronary Intervention
T. Svilaas and others
http://www.nankodo.co.jp/yosyo/xforeign/nejm/xf2hm.htm
背 景
初回経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は,
ST 上昇を伴う心筋梗塞患者の梗塞責任動脈を
開通させるのに有効である.
しかし,アテローム血栓の血液成分屑(debris)の塞栓は,
微小血管の閉塞を引き起こし,心筋の再灌流を減少させる.
方 法
初回 PCI 時の手動吸引が従来の治療法よりも優れているかどうかを
評価するため,無作為化試験を行った.
冠動脈造影の施行前に,計 1,071 例の患者を,
血栓吸引群と従来の PCI 群のいずれかに無作為に割り付けた.
アテローム血栓物質の組織病理学的所見が認められた場合に,
吸引が成功したものとみなした.
血管造影と心電図における心筋再灌流の徴候,
および臨床転帰を評価した.主要エンドポイントは,
心筋ブラッシュスコアが 0 または 1
(心筋再灌流なし,または最小限の心筋再灌流)とした.
結 果
心筋ブラッシュスコアが 0 または 1 であったのは,
血栓吸引群の 17.1%と従来の PCI 群の 26.3%であった(P<0.001).
ST 上昇が完全に消失したのは,それぞれ 56.6%と 44.2%であった(P<0.001).
この利益は,事前に規定された共変量のベースライン値における
不均一性を示すものではなかった.30 日の時点の死亡率は,
心筋ブラッシュスコアが
0 または 1 の患者で 5.2%,
2 の患者で2.9%,
3 の患者で 1.0%であり(P=0.003),
有害事象の発現率はそれぞれ
14.1%,8.8%,4.2%であった(P<0.001).
組織病理学的検査により,患者の 72.9%で吸引が成功したことが確認された.
結 論
血栓吸引は,ST 上昇を伴う心筋梗塞患者の大部分に適用可能であり,
ベースラインの臨床的特徴および血管造影上の特徴にかかわりなく,
従来の PCI よりも優れた再灌流と臨床転帰をもたらす.
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日本のカテーテルを行っている循環器医師にとっては
もはや当たり前、常識的な結論ではあります.
急性心筋梗塞でカテ室に運び込まれた時
閉塞病変に血栓が多量に存在する場合には
なんらかの血栓吸引、もしくは末梢保護デバイスを用いて
治療が行われる事になります.
それ以外には、カテーテル治療による末梢塞栓、末梢への血栓浮遊が
危惧される治療、末梢血管治療、腎動脈治療、鎖骨下動脈治療などでも
血栓吸引、末梢保護デバイスが用いられます.
関連情報としては
今年4月から保険償還が開始される
頚動脈ステント(CAS)の問題があります.
脳梗塞の原因となる頚動脈の狭窄に対して
これまでの外科的治療に加えて、冠動脈や末梢血管で行われているのと
同様のカテーテル治療、ステント植え込み治療が
いよいよ本格的に開始されることとなります.
頚動脈のカテーテル治療においては、その合併症の一つとして
末梢塞栓等による脳梗塞の発症のリスクが挙げられています.
安全に治療を行っていく上で
冠動脈治療で日常的に行われている
上述の血栓吸引や様々な末梢保護デバイスの使用が
不可欠となります.
先日、参加したCCTの学会でも
この頚動脈ステントに関連するセッションは大にぎわいの状況でした.
この領域に循環器医師、脳外科医、放射線医などの様々な専門分野の
知と技術の結集が期待される分野です.
カテ室スタッフの方々は、こうしたデバイスになじんで
使いこなしていただく事を期待します.